日々の雑感


by さむちゃん
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色彩を持たない多崎つくると、…

先日知人から戴いた村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を、二晩かかって読み終えた。昼間読めないので夜九時過ぎからの読書を考えると一気に読めた方かもしれない。村上春樹の小説に魅了されたともいえる。

わかりにくいタイトルだが、英文のタイトルを読むとすっきりする。Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage 「つくる」と名前が平仮名表記なのでわかりづらいのだろう。多崎作は主人公の名前である。-

あらすじはざっとこんなものである。多崎つくるは、高校時代に仲良し5人グループに所属していた。つくるは東京の大学に、他の4人は地元の大学に進学する。大学二年のとき突然に理由もなく疎外されてしまう。そのトラウマを引きずったままつくるは、東京で駅舎をつくる技術者として会社勤めを続けている。36歳のときガールフレンドに疎外の理由を明らかにするように言われ、昔の仲間を訪ねてまわる。

村上小説特有の、北欧がでてきたり音楽や酒に関して薀蓄の深さを示す場面がでてくるが、今回は、高校時代の同級生がレクサスのセールスマンをしている設定で車描写が細かい。

「個性」とは何か?「人間」とは何か?といったような根源的なところをテーマにした小説である。読みながら、年齢退行療法や小野田寛郎氏のことなどを思い出した。

年齢退行療法は、幼児期あるいはトラウマをかかえた時点に遡って追体験したり、大人の知恵で乗り切ってしまうという療法である。強迫観念的に取りついている言葉を払しょくしたり、幼児期に成し得なかった体験を、体験し直すことで人間関係の修復や自信回復をめざす心理療法である。

小野田寛郎は、日本軍の元兵士で太平洋戦争終結から29年目にフィリピンルバング島から帰還した人である。彼は終戦を知らず密林の中に潜伏し続け、上司の谷口義美元少佐から任務解除・帰国命令を受け、やっと武装解除して投降した。情報将校であった小野田氏がスパイとして洗脳されていた(任務に忠実だったというべきか)ことはよく知られている。人間の「心」が、このような極限まで追い詰めるものかと驚かされる。

小説中の多崎は、おそらくは個性的魅力的な人物なのだろうが、5人仲間の中で唯一色が入っていない名前をもつ自分を「色彩を持たない=個性のない」人間として、知らず知らず自己暗示をかけてしまう。人間関係もうまく築けず、自信のない悩める青年として成長していく。最後には、謎解きのような巡礼の果てにフィンランドまで同級生の女の子を訪ねて行き、そこで暗示を解いてもらうことになるのである。

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by attainmentofall8 | 2013-07-30 11:49 | 読書