日々の雑感


by さむちゃん
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2013年 08月 28日 ( 1 )

セレンディピティ―(serendipity)というのは、自然科学の世界ではよく使われる。ノーベル賞受賞者の田中耕一さんは、たんぱく質の質量分析手法の発見が受賞理由だが、実験の失敗から偶然にこの手法を見つけたということで有名になった。思いがけないことを発見することあるいはその能力のことである。

与謝野晶子短歌文学賞2013年青春の部入賞作品をみていて、文学作品にもこのセレンディピティ―があるのではないかと思った。

くもり空の校舎から街見ていても仮定法ほど悲しくはない  越田健介

「仮定法」という言葉の斡旋が意表を突く作品で、読者に深読みをさせるいい歌に仕上がっていると思う。音調もいい。「人生の現実は厳しい。仮想の世界で遊べたらいい。」と、とられた歌人もおられる。

直接本人に訊いたわけではないのであくまで想像であるが…。
この「仮定法」が英文法の仮定法であるとするなら、この高校生は教室から曇り空をぼんやり眺めながら、今まさに行われている仮定法の講義に深いため息まじりに「ひぇーこんなにいっぱい覚えなくちゃいけないのかよ!」とつぶやいている様子がビジュアルに見えてくる。「~ほど…ではない= not as…as~」と併せて考えると、英文法の例文のごとき雰囲気も伝わってくる。

古典の助動詞活用一覧表の暗記も苦手な生徒にとっては苦痛以外の何ものでもないが、おそらく越田君は、英語は苦手しかも仮定法のルールにうんざりしているのだろう。

くもり空の校舎(教室)からみる街 < 仮定法
うんざりするような仮定法の文法知識より、どんよりと曇った街のほうが悲しみの度合いではまだましだという叫びすら聞こえてくる。

ただこの越田君の文学的才能は、「仮定法」だけでなく「悲しくはない」という措辞が秀逸であるだけでなく、マイナスをプラスに転化する如く、逃さず短歌として一首を生み出したところにある。まさにかれのセレンディピティ―を感じるのである。

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by attainmentofall8 | 2013-08-28 18:10 | 俳句/短歌/川柳