日々の雑感


by さむちゃん
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2010年 06月 14日 ( 2 )

孤高のメス


久しぶりに見ごたえのある邦画をみた。
現役医師、大鐘稔彦のベストセラー小説「孤高のメス」を映画化したものである。

医療ミス、地域医療、臓器移植などをメインテーマにした四つ星をつけたくなるような映画である。多かれ少なかれ観客にメッセージを伝えるのが映画である。たとえ製作者側が意図しなくても潜在意識に何かを残すものが映画といえる。ただ、この映画は小説の映画版だけに、医療界の問題点を余すところなくさらけ出して問いとして投げかけているように感じた。

思いつくだけでも、映画の中で、密室医療、医療ミス、優秀な医者の偏在、医師不足、地域医療、僻地医療、病院内医療従事者のねたみ・嫉み、医学会のヒエラルキー、脳死問題、臓器移植の法制化の遅れ、医者の倫理観・正義、などが問われているように思う。

この映画は、アメリカで最先端外科手術を学んで帰った当麻鉄彦(堤真一)という若い医者が、ある地方の市立病院に赴任してきたところから始まる。誤診や医療ミスの頻発する中で当麻はブラックジャックのようなみごとな外科手術で人々の命を助けていく。

看護師、中村浪子(夏川結衣)の当麻に対する尊敬のまなざしと純愛をはさみながら進行していき、あるとき脳死肝移植の決断を下さなければならない状況に遭遇することになる。まだ、脳死が医療界で厳密に定義されていない上、脳死肝移植は法律的にできない。実施すれば殺人罪で告訴される可能性もあるという緊迫したクライマックスである。

小説はかなりの長編であるが、映画はあっという間の二時間である。
この映画に触発されて医者を志す若者がひとりでも多くなればと思う。
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by attainmentofall8 | 2010-06-14 17:09 | 映画/落語/芸能

遠野物語


柳田国男の「遠野物語」が初版刊行されてから今日でちょうど100年目だそうだ。明治43年(1910)6月14日のことである。今でも児童文学書コーナーでも手に取れるこの本が、日本民俗学開明の書とは正直知らなかった。同書は民俗資料の宝庫で、岩手県の遠野地方は今では民俗学のメッカとなっている。

里の神、家の神、山の神などの民間信仰の神々。天狗、山男などの山中の怪。雪女、河童などの妖怪。猿、狼などの動物譚。年中行事、昔話。家の盛衰などが語られている。
これらの項目は民俗学上、重要なテーマとして発達して柳田国男自身あるいは他の学者によって多くの論文が書かれていった、まさに立学の書といえる。

柳田に師事した折口信夫はもちろんこの本で民俗学研究へと触発された一人であるだろう。新版「遠野物語」の解説で鶴見太郎は、今西錦司が旧制高校時代に初版本を偶然古本屋で見つけて、暗記するまで読み込んだと記している。今西錦司(1902-1992)といえば、京大教授で棲み分け理論の提唱者である生物学者である。生態学者でもある今西に、自然科学で検証不能と一笑に付される現象も、丹念に「自然」のなかに組み入れ、観察の対象にするという学者魂を植えつけた書といえるだろう。

この書は、遠野の在の佐々木氏より聞いた話をそのまま書いたものであるが、日本の民族学を生み出すきっかけになった重要な著作である。
昔読んだときは、ただの怖い伝奇小説・怪異譚くらいにしかとらえられなかったが、今回読み直してみて柳田民俗学の炯眼にふれたように感じた。
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by attainmentofall8 | 2010-06-14 01:02 | 読書