日々の雑感


by さむちゃん
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切れ字「や」の続き

切れ字の「や」について。前回、

朝顔に釣瓶とられてもらい水 加賀千代女

の「に」は「や」で切れるのが原句だったのではないか、という記事を紹介した。

朝顔や釣瓶とられてもらい水

「に」は理屈が先行する。「や」は「朝顔や」で切れることで、朝顔の咲く朝に、誰かに釣瓶を盗られてもらい水をする、ととるべきではないかというのが久米氏の意見である。一方、釣瓶を盗まれるという無粋なことは俳句にはならないのではないかという意見もある。千代女さんに、もらい水してもらうことを希望する隣人にいたずらで隠されたかなにかではないか?なにせ朝の寝起きの顏でも美人の千代女さんである。

「や」で切った二句一章の句を見ながら、季語との微妙な付き具合をみてみたい。つまり季語が動かず一句の中で生かされているかどうかということである。

あぢさゐやきのふの手紙はや古ぶ  橋本多佳子
あぢさゐや軽くすませる昼の蕎麦  石川 桂郎
あぢさゐや仕舞のつかぬ昼の酒   乙二
あぢさゐやなぜか悲しきこの命   久保田万太郎
紫陽花や家居の腕に腕時計     波多野爽波
紫陽花や師の音声のラヂオより   石田 波郷
紫陽花や子を生み終へし高いびき  岩田 由美
紫陽花や身を持ち崩す庵の主    永井 荷風

紫陽花は、梅雨時の代表的な花であるが、万葉集の時代は「ガクアジサイ」のことだと考えられている。橘諸兄の歌に、「あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませわが背子見つつ偲はむ」からみても、大ぶりな色柄からおめでたい花と考えられていたようだ。

今では品種改良されてさまざまな種類があるが、ガクアジサイはホンアジサイに比べ控えめな感じがするのか花言葉は「謙虚」。

ホンアジサイの花言葉は多彩。
ポジティブイメージでは、「元気な女性」「辛抱強い愛情」「一家団欒、家族の結びつき」
ネガティブイメージでは、「移り気・浮気・変節」「冷淡」「高慢・無情」

波郷句は、切れを大事にした波郷らしい句である。師とは秋櫻子のことだろうか。ガクアジサイから師系図がイメージされるうえに、ラヂオを通して聴く師の声に敬意すら抱いている。

万太郎句の「なぜか悲しきこの命」。「気に食わぬ風もあろうに柳かな」という川柳を思い出す。濁世に身を置くしがない人間の宿業すら感じる。この句の場合、無常観があぢさゐという季語を抜きにしては出ないだろう。
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by attainmentofall8 | 2016-07-26 23:48 | 俳句/短歌/川柳