実彦と牧水
2016年 06月 10日
『俳句』6月号(角川文化振興財団発行)が、「蛇笏賞のすべて」という特集を組んでいる。蛇笏賞創設以降50年間の受賞者53名の50句抄と小論がついた完全保存版・別冊付録つきである。有り難いことだ。
特別寄稿の筑紫磐井「蛇笏賞の戦略―俳句が文学となるために」の中に、「改造社は創業者山本実彦(薩摩川内市出身)が歌人であり、(若山牧水とは最も親しい友人であったようだ)、事業も短歌が主流であった。たとえば、総合誌でいえば、まず「短歌研究」を創刊し、その後「俳句研究」を刊行した。」という文をみつけて、そうかと得心がいった。
山本が齊藤茂吉を川内に招待したり、また与謝野鉄幹・晶子夫妻と川内川の川下りを楽しんだというのもうなずける。また、牧水が「あくがれつつ」全国を旅して回れたのも山本というパトロンがいてこそのことだったのだろうと推察できる。というのも、円本で財を成した山本は、他の出版社の2~3倍の稿料を払って有名作家の作品を自社の出版物に掲載していたという。それに山本も牧水も明治18年生まれで同年しかも出身が隣県どうしである。二人とも酒好きなだけにもっとも親しい友人であったというのもうなずける。
山本が歌人であったとあるが、彼の作品は目にしたことがない。読んでみたいものだ。昔、国会図書館で山中貞則氏の歌集「慟哭」を読んだ時の感動に似たものを受けるような気がする。